2005年11月23日

ひとすじ 最初の一歩

宮田宏平

三代宮田藍堂の香炉 小紋
ひとすじに生きた人間だけが辿り着ける境地。

ときどき箱から取り出して眺めてみる。
時を忘れる。

昨日 親しくしていただいている知人、人生の大先輩の内輪の祝賀会に出席した。
半世紀近くみかん作りひとすじに、理想を追い求めた人生が、人の心を打つ。
だが言う。ただの一度も、納得できるみかんが出来た年はないと。


建築を志して。
15の春からこの世界に足を踏み入れて、その深遠に途方にくれながら、右往左往しながら生きている。

何とか足を踏み外さずに、やっていけるのは、先人の残した、ひとすじに生きた人間だけが作り得る、残されたものが目の前にあり
それに触れたときの感動やら、恐れやら、あこがれやらが、いつまでも忘れられずにいるからだ。

建築を志した者のほとんどが持っている心根。

何で自分は、この世界にいるんだろう。
何で自分は、何時までも、こうしてのた打ち回っているんだろう。
と思うとき、振り返る最初の一歩。


世間を騒がしている、建築士の計算書偽造事件。
言葉を失って、
しばらく書き込みが出来ないでいた。

彼にも最初の一歩があって、何でそれを忘れてしまったか。

憧れを、何で銭金に代えてしまったか。

彼に子供がいたら、今その子はどんな思いでいるだろうか。

ものを作る人間たちの素朴で素直な、最初の一歩を泥で汚した。

自分だけのものだったら、壊して造りかえればいいけれど、そうはいかない。

みんなのものを造っているからこそ、尊く思われて、
だからこそ、子供達だって憧れの目を向けるのだろうに。

自分だって、その子供達のひとりだったろうに。



最初の一歩、忘れずに。そしてひとすじに生きよう。
ただただ、修行僧のように。

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