朝旅館に着いて、裏山の竹林に入って竹を見繕う。
鈴木直衛さんは竹が好きだった。
今日は竹を生けると決めてある。
「雨楽会」。右も左も、お茶もお花も良くわからないまま手伝いに行く。
「おい若山、そこに花生けておけ」と言われて、しかたなくはじめて花を生けてみる。
「これじゃあ しょうがなかろう」と言われて何回も生けなおす。
以来私は、いつなんどき、どんなところで、どんな状況でも、
「おい若山、花を生けておけ」と言われても困らないように、
花の修行を続けてきたのでした。
以来28年。
まさかこんなかたちで、鈴木さんに花を捧げることになろうとは、
思いもよらぬことでした。
供華、しかも花手前。
しびれる。これが雨楽会。
ああ、これが雨楽会だよ。
鈴木さん、見てよ。
若山が花を生けてるよ。
精いっぱいカッコつけて。
しびれてんのに、わけない様な顔して、
ちょっと焦ってんのに、何食わぬ顔をして、花生けてるよ。
これが雨楽会だよね、鈴木さん。
化けてでもいいから出来てもらいてえよ。
「おお若山、今日はまあまあだな」って、もしかしたら言ってもらえるかな、鈴木さん。